賛否両論2~果肉と俺~――息苦しいもうそんなことすら思わなくなってきた。 外ではどれくらいの時間が流れているのだろう…… あと最近、果肉のヤツが鬱陶しく感じてきた。 何故か?それは―― 「役立たずぅ~」 目を自分に向けてはいないが、明らかに自分に向けて発せられている言葉だ。 そして今日も、仁義無き論議が交わされる…… 「当てつけなど聞きたくない。また『種の有無について』だったら相手になってやる」 「そういう喧嘩腰になるのやめろよ。我々食べ物にとっちゃ数少ない話のネタじゃないか」 「その意見には反対しないがそういう始め方やめろ。鬱陶しい」 「細かいねぇ。で、この前は何処まで進んだっけ?」 「『種無しスイカ』の存在について、だ。先行行かせてもらうが、はっきり言って巷で種無しスイカが出回っている話を俺は聞いたことがない。そんなモノが存在していても、巷に出回っていなければ意味がない。さらにいえば、出回っていても庶民に親しまれていなければアウトだ」 「君は何のために『種無しスイカ』が発明されたか分かってないようだね? 実に単純な話だ。君のような存在が邪魔だから『種無しスイカ』が開発されたのだ。巷に出回っていないのは若干手間が掛かるからだろう。それかコストが高いか。いずれにせよ『種無しスイカ』が、今のスイカに変わって出回るようになるのは時間の問題だと思うね」 「根拠のない推測はやめろ。そもそも、そっちこそ俺の存在意義が分かってない。確かに、種本来の役割を果たしているのはほんのごく僅かだが、それ以上に大事な役割を担っているのだ」 「それは?」 「ビジュアル、だ」 「は?」 「俺をなくして「スイカ」は成り立たない。「種」があるからこそ「スイカ」なのだ」 「それならば鑑賞用のスイカにでもついているほうが良かろう。スイカは食べ物なのだ。食べるモノに食べられないモノが付いていては邪魔以外の何者でもない」 「分かってないな。種があるからこそ食欲がそそられるんじゃないか。あの目が覚めるような濃い赤に、落ち着いた小さな黒。それが『バランス』というものだ。ビジュアルをなくしてスイカは名乗れない」 「違うな。食べ物は『機能』だ。食べにくい食べ物を何故食べたがると思う?」 「それが『美しい』からだ」 「ふ。芸術論から攻めてくる気か」 「食べ物はある種の『美術』だ。美しくない食べ物を何故食べたがると思う?」 「『食べやすさ』こそ食欲の要だ!」 「ビジュアルだ!」 「機能だ!」 と、不意に二人の体が宙に浮かび、光に晒される 「うおぉっ」 二人は同時に驚きを示す。 やがて視界は再び真っ暗になり、二人は大地震にあった。 「そら、もうすぐ君だけ外へ戻れるぞ。良かったな」 ヤツは皮肉じみた声で俺に言った。俺も薄々そんな気がしていた。 が、 ――ゴックン 「……あれ?」 二人は同時にハテナマークを頭に浮かべる。 「……変わった奴もいるもんだな」 俺は落ち着いた口調で言った。 「ま、間違えて飲み込んでしまったんだろ。」 ヤツは切り札を失ったような口調で言った。 「……引き分けでいいか?」 「……いいよ」 ヤツは、ほんの少し不満そうだった。 ~おしまい~ ジャンル別一覧
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